Jay • VP in Japan
日本のコールセンターDX担当者は、「AI導入」の指示と現場の現実に板挟みになりがちです。人手不足への対策として期待される一方、「おもてなし」の低下やAIの誤回答(ハルシネーション)、現場の負担増への懸念が根強いからです。
本記事では、導入が進まない背景を整理し、海外や国内先行企業の事例から「人とAIの役割分担」のヒントを紐解きます。
また、適切なKPI設計や現場と進める検証プロセスなど、失敗しないためのポイントを解説。終盤では、チャネルトークを活用したチャネル一元管理や業務支援AIについて紹介します。「自動化ありき」ではなく、「効率」と「おもてなし」を両立させる、自社に合った運用の道筋を描くためのガイドです。
多くの現場では採用難と定着率の低さが慢性化しており、ギリギリの人員で運営しています。
この状況でAI導入を進めると、「現場が疲弊しているのに新しいツールを覚える負担が増える」と反発を招きがちです。本来は、人手不足解消のためのAIですが、導入自体が負担と捉えられてしまうのです。
DX担当者は、人手不足を単なるきっかけではなく、プロジェクトの進行そのものを左右する制約条件として認識し、現場に配慮した進め方を考える必要があります。
生成AIは便利ですが、もっともらしい嘘をつく「ハルシネーション」への懸念が現場には強くあります。
特に金融や医療など正確性が求められる業界では、誤った案内への不安が顕著です。また、回答の根拠が不明確だと、オペレーターは自信を持って案内できません。
「誤回答をゼロにする」ことばかりを目標にすると、運用設計や役割分担の議論に進めず、プロジェクトが停滞してしまう原因になります。
海外ではAIによる人員削減が強調されがちですが、長期雇用が前提の日本では「AI導入=リストラ」と捉えられると合意形成が困難になります。
現場管理者にとっても、経験豊富なオペレーターは貴重な戦力であり、「AIに置き換える」とは言いにくいのが現状です。単純作業をAIに任せ、人は配慮や提案に注力するという役割分担を描き、雇用の維持と生産性向上を両立させる視点が、日本での導入には不可欠です。
海外の先進事例では、電話を全廃するのではなく、音声とチャットを組み合わせたハイブリッド運用が主流です。
入り口で用件を整理し、内容に応じてチャットや有人電話へ誘導します。チャネルをまたいでも会話履歴が引き継がれるため、単純な用件はAIやチャットで素早く処理し、複雑なケアが必要な場面では人が対応するなど、それぞれの得意領域を活かした体験設計がなされています。
「何でも自動化」せず、向き不向きを明確に線引きしています。よくある質問、住所変更、配送確認など、ルールとデータで完結する業務はAIが自動化します。
一方、クレーム対応や解約阻止、深い相談など、感情への配慮が必要な業務は人が担当し続けます。
AIは情報整理や回答候補の提示で人を支援し、最終判断や細やかな表現はオペレーターが行うことで、品質と効率を両立させています。
成功企業は「コスト削減」だけでなく「待ち時間短縮」や「回答の均一化」など、複数の目的を設定しています。また、導入前にFAQや過去ログを整理し、AIが学習しやすいデータを準備することに時間をかけています。
運用開始後も、誤回答の分析やナレッジの更新、オペレーターによる修正内容の学習など、地道な改善サイクルを継続している点が共通しています。
自社だけで完結させず、ベンダーやBPO事業者などのパートナーとチームを組んで進めています。モデル選定やプロンプト設計、会話フローの構築からトレーニングデータの準備まで、専門家の知見を活用してリスクを低減しています。
伴走者がいることで、現場の負担を抑えつつ早期に運用イメージを確立でき、課題発生時も迅速に改善できる体制を整えています。
国内の先行事例では、センター全体を一気にAI化せず、特定の問い合わせや夜間受付などから段階的に導入しています。件数削減だけを目的にせず、「これまで対応しきれなかった件数をカバーする」「オペレーターの精神的負担を減らす」といった効果を重視しています。リスクを抑えて小さく始め、現場の負荷を平準化しながらサービス全体の底上げを図るアプローチが特徴です。
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「自動化率」のみをKPIにすると、人が対応すべき案件までAIに任せてしまい、品質低下を招く恐れがあります。成功企業は、自動化率に加え、待ち時間の短縮、対応時間の変化、満足度などを複合的に評価しています。
「自動化できたか」だけでなく、「全体として体験が良くなったか」を指標にすることで、数字に振り回されず、実質的な改善サイクルを回せるようになります。
オペレーターの不安を払拭するため、役割の再定義が重要です。AIが事前ヒアリングや単純処理を担い、人は最終判断や提案、感情ケアに集中するよう業務を設計します。
単なる処理担当から「相談役」へと役割を変えることで、仕事のやりがいやキャリアパスを提示し、AI導入をポジティブな変化として現場に受け入れてもらうことが成功の鍵です。
業務の棚卸しから始めます。「件数(ボリューム)」「定型化の度合い」「ミスの許容度」の軸で整理し、件数が多くルールが明確で、リスクが低い業務から着手します。
感覚で決めるのではなく、客観的な基準で「AI向き」と「人向き」を仕分けることで、現場との合意形成もスムーズになり、効果的な検証が可能になります。
いきなり本番導入せず、対象範囲や期間を限定したPoC(概念実証)を行います。例えば「特定カテゴリのみ」「社内利用のみ」で試し、成功基準を事前に定めておきます。
定量的な数値だけでなく、オペレーターの体感や回答ログの分析を通じて、AIの実力と課題を把握し、本格導入に向けた現実的な判断材料を集めるプロセスが重要です。
トップダウンではなく、現場を巻き込んだ体制を作ります。リーダーやベテランに参加してもらい、懸念点や期待をヒアリングします。
また、AIの回答精度チェックやフィードバックを現場に任せることで、「仕事を奪われる」という意識から「AIを育てる」という意識へ変えていきます。現場の納得感を高めることが、継続的な運用には不可欠です。
コールセンターで使用する機能を搭載したツールである「チャネルトーク」のAll in One AI メッセンジャーを使うと、電話・メール・チャット・SNSを一つの画面に集約し、問い合わせ履歴を一元管理します。
どの窓口からの連絡でも過去の経緯を把握でき、スムーズな案内が可能です。また、チャネルごとに担当者を固定せず柔軟に配置できるため、効率的なシフト運営が実現します。
AIによる分類機能と合わせれば、最適な担当者への振り分けも自動化できます。
「顧客ALF」が、よくある質問や手続きなどの定型業務を自動で一次対応します。ナレッジに基づいた正確な回答により、オペレーターは単純な問い合わせから解放されます。
その分、感情的なケアや複雑な提案など、人にしかできない付加価値の高いコミュニケーションに時間を割けるようになり、センター全体の品質と生産性が向上します。
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「社内ALF」は、マニュアルやFAQを学習し、オペレーターの質問に即座に回答する支援ツールです。資料を探す時間や管理者への確認待ちを削減し、対応を高速化します。
また、過去ログの要約や回答例の提示により、新人教育の効率化や引き継ぎの円滑化にも貢献。お客さま対応の裏側で、現場の業務負担を強力にサポートします。
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必要な機能を選んで導入できる柔軟な料金体系により、スモールスタートが可能です。最初はメッセンジャー機能でチャネル統合から始め、ナレッジが整った段階でAI機能を追加するといった段階的な拡張ができます。
初期コストや失敗のリスクを抑えながら、自社のペースに合わせて次世代型の運用へと移行していけます。
ここまで見てきたように、日本のコールセンターが抱える課題は、単なる「人手不足」だけではありません。AIの誤回答への不安や、人を減らしづらい雇用慣行、現場の心理的な抵抗など、複数の要素が絡み合って、AI導入を複雑にしています。
一方で、海外の事例からは、「すべてを任せる」のではなく、音声とチャットを組み合わせたハイブリッド運用や、業務ごとの線引きを明確にした設計によって、効率と体験を両立している姿が見えてきました。
日本の現場が抱える課題に対し、AIと人のハイブリッド運用が解決策となります。海外や先行企業の事例に学び、適切なKPI設計や役割の再定義を行うことが重要です。
チャネルトークのような接客プラットフォームを活用し、定型業務はAI、高付加価値業務は人という分担を実現することで、現場の負担を減らしつつ「おもてなし」を維持する、持続可能なセンター運営が可能になります。
参考:
コールセンタージャパン・ドットコム-実態調査に見る国内コールセンターの現状と課題一般社団法人日本コンタクトセンター協会-2024 年度「コールセンター企業実態調査」結果【調査/生成AI活用における課題が明らかに】「ハルシネーションに不安を感じる」が59.2%で最多、生成AI活用に求められる「セキュリティの強化」と「ハルシネーション対策」株式会社ChillStack-80%が生成AIの利用に不安を抱える一方で、懸念リスクへの対策は後手に回っている実情が明らかに